ある男性は氷がそのまずい琥珀色の液体に溶け込むのを見て小指でグラスの縁をなぞりながらバーに座っている。彼はため息をついて一気に飲んだ。のどが焼けて顔をしかめているのを見たバーテンダーが目をぐるりと回した。
その男性は「なんでいつもウィスキーを頼むんだよ…」とつぶやいたけど「いや、男らしいから飲むんだ」と彼は思っているんだけど。
「私も知りたいんですよ。」とバーテンダーがこっそりと返事をした。
その男性はそれを無視して向こうにいる愉快な会話をしている男女の二人をちらっと見て、視線が空っぽのグラスに戻ってまたため息をついた。「話しかけられる女性いないんだな。あの男がいなければ…」と男性が頭の中でなげいた。
その瞬間、誰かが隣の席に座った。
「よお、スティーヴ、バーとか気に入ってないと思ったんだけど、どうしてここに?」
「うせろ、さみしいんだよ。」
「ひどいな、親友にあんな口を使うなんて。てかさ、友達がいればさみしくなくね?」
スティーヴがその誰かに顔を向けた。上半身は鹿で、下半身は人間。「鏡を見てくれよ。角もついてる毛だらけのお前と関わったら彼女を見つからないに決まってるじゃねえか?!友達が要らねえ、彼女、彼女だよ?!」
半分鹿半分人間がかなしがっているように一時黙っていたが、にっこり笑っていた。
「確かにハーフはモテモテだから関わらないほうがいいかもな。好きな女性が取られちゃうからなー」と半分鹿半分人間が自慢満々のふりで笑った。
バーテンダーはこっそりと笑って、スティーヴは眉をひそめた。
「冗談じゃないんだよ、フィニアス。変人に思われたくないから一人にしてくれよ。ちゃんとしないと恋愛に手遅れちまうんだ!」
フィニアスはかなしい笑顔で「機嫌がよくなったら遠慮なく連絡してね」と言って去っていった。去っていったのに、その夜、スティーヴは女性と一人さえも会話せずに帰った。
一週間後、土曜日、九時半ごろ、スティーヴはアパートの戸をドカンと閉めて玄関で靴をけり脱いだ。ネクタイをゆるめてソファにバッタリ倒れた。
「疲れたー」
合コンに行ったのに片思いしかしなかった。女性の一人にも好かれていなかったんだ。
「なんで?あいつら頭おかしくね?ちゃんと調べたんだよ、女は何が好きって。女にモテそうなおしゃれな服着てたのに?女が聞かれたがることを言ったばっかなのに?!ったく、ゲイだったら簡単なもんだが、女はめんどくさっ」
スティーヴは彼女ができるように頑張ってネットで色々調べて立派な男の演技をしたのになんか虚しい気持ちだった。楽しかったとも言えないんだ。
インスタを開けて今夜のドゥーム・スクローリングが始まった。そこでフィニアスのストーリーを見た。フィニアスは二時間前男女のグループと楽しく食べ放題フライドポテトを食べたり友達とワイワイ歌ったり笑ったりした。かわいい子もストーリーに移っててスティーヴはうらやましかった。30分前のストーリーで、フィニアスはかわいい女性と二人きりでファミリーマートの外でヤンチャなしゃがみ込みで、期間限定のコンビニスイーツをにっこりと食べたのが写っていた。5分前、キラキラするハート型スタンプに隠されたが、彼女が彼のほっぺたをチューしたに違いない。
スティーヴは「ちゃんとしているのはオレなのに、フィニアスって半分が鹿なんだよ、誰が角がついてツヤツヤしている黒い鼻と毛だらけの顔のあいつと付き合いたいんだよ」と一瞬思って、ちょっと罪悪感を感じた。
「そういうところじゃないな。俺は悪かった。」と思ってため息をついたらスマホが手から滑らせて顔に落ちた。「いってててー」
さびしいからか、罪悪感だからか連絡したくなって、何を言えばいいのか分からないまま、スマを拾い、フィニアスに手を振っているペンギンのラインスタンプを送った。そして、スマホを床に落として顔を手で隠しながら「何してんだろ、俺」と揺れている声でなげいた。
「寝ろ寝ろ。」って身を起こしたら、不意にLINEの通知オンが鳴ってスマホを取るに飛びついた。
フィニアスだった。
